プロミス・パーク ── 未来のパターンへのイマジネーション

プロミス・パークとは

世界のあらゆる都市に存在する公園。公園はなぜ作られ、本来何の場所なのか? 人間、ひいては生態系にとってどのような意味を持つのか? YCAMでは、2013年から3年にわたり、韓国のアーティスト、ムン・キョンウォンと共同で、「未来の公園」を主題に「プロミス・パーク・プロジェクト」を推進している。本展では、プロジェクトの中でおこなってきた文献調査やフィールドワークの成果の集大成として、新作インスタレーションおよびパーク・アトラス(公園のアーカイヴ)を公開する。

集合知としての「公園」

2013年に「集合知」という題材を、YCAMからオファーし、そこからムンが提案したテーマが公園である。様々な文明、文化、人類の営みが交錯し、時代を超えて維持されていく公園が、人類にとっての集合的な知の結晶であり、巨大な都市のアーカイヴであると発想したムンは、さらに、近代的社会システムに則って成立している都市が、大規模な災害を経て瓦解した後の姿を想定し、建築家、ランドスケープ・デザイナー、植物学者等とともに、近未来の公園を考案してきた。

「公園」というモチーフ

近未来の公園を構想する上で、従来の近代都市における公園の公共的機能、形態、役割の分析をおこない、諸事例の文化史的差異と普遍性を問う必要がある。その過程で問題となるのは、公園の前史としての庭園/庭との歴史的な接続と切断、跳躍の可能性をどのように読み込んでいくかである。公園は、古墳や廃墟を内包した庭園の象徴性を引き継いでいる。近代社会に潜む廃墟の因子、近代が隠微した民俗学的なアジール性、子宮的な場所性、混在する多様な時間体系など、公園に託された集合知を明らかにし、未来の公共空間へのイマジネーションについて考察する。

端境としての「公園」

古代において祭祀空間、祝祭空間として形成されてきた限定空間は、庭や庭園と歴史的に接続/切断/変容を繰り返し、現代に至る発展の過程で公園とも関連性を持ってきた。このような観点から考えると、公園はどこかで超越的な楽園への憧憬と繋がっており、侵略不可能な無意識的防壁として担保されてきた空間であると考えることができる。また公園は、市民革命以降の近代化の流れの中で、緑によって囲い込まれることで場を形成してきた。結果、 都市の変化や経済的な乱動から隔絶された浮遊する存在として、他の空間とは異なる時間体系を包摂する場所となった。さらに自然との関係から考えるならば、完全に人為的に造成された空間でありながら、植生や生物の多様な生成変化を内包する場所としての側面が見えてくる。このように、人工と自然が緩やかに繋がることで、公園の内外が混在していく、端境(中間領域)としての公共空間に着目する。

織物の絨毯

移動する公園:知のアーカイヴとしての織物

床面を覆いつくす巨大な絨毯(京都の西陣織)が、各地の公園、廃墟、絨毯の織機から集積した映像と音によるインスタレーションとともに現れる。絨毯は、会期中にも京都の工房で織り続けられ、会場内に増殖していく。

膨大なアーカイヴに対峙し、それを紐解こうとする時、人間の知識や知覚は頼りなげなものに映る。「プロミス・パーク」では、様々な文化圏にみられる文様(パターン)のように、抽象化された情報同士の跳躍的な結合をもたらす発想の根幹として、東洋の神仙思想における「縮地」の概念に着目してきた。長大な時間が積層した都市空間のイメージは、織物として縮約される過程で文様として抽象化され、さらに経糸と緯糸というバイナリに解体されていく。

このような過程を経て生成される絨毯は、膨大なアーカイヴが縮約された知のアーカイヴとして捉えることができ、さらに空間に展開することで、新たな人間の身体や知覚を発動させる表徴となりえる。公園/庭園は、多様な景観を圧縮して冷凍保存する装置であり、東洋の庭園は、抽象化と縮約をきわめる究極の空間と考えることができる。このような縮地の観点からみると、絨毯を移動する公園/庭園とみなすことも可能である。

パーク・アトラス

公園をめぐる記憶のアトラス

本展では、ゲスト・リサーチャーの原瑠璃彦(日本庭園)と他の研究協力者、及びYCAM InterLabの共同でおこなった、過去における公園の系譜の研究調査成果を、「パーク・アトラス」として公開する。そこでは、世界中の種々の公園と、山口市内の石アーカイヴという、西洋モデルと東洋モデル、近代以降と近代以前、マクロとミクロ、包括的空間と発散的空間といった相対立する2つの系譜が、「アトラス」の手法によってプレゼンテーションされる。膨大な図面、写真、映像、絵画、テクスト、ビブリオグラフィー、3DCG等の多様な情報を、マルチ画面によるスライド映像の形式で、絶えずその組み合わせを変えながら配列する。この新しいアトラスによって、時代背景に裏打ちされた公園の系譜の生成過程が分析され、その歴史における諸要素間の接合や変化、跳躍が見出される。

近代公園
ハイド・パーク(ロンドン)
セントラル・パーク(ニューヨーク)
上野公園(東京)

公園の思想の新たな展開
ムンダネウム計画(ブリュッセル/ジュネーヴ/モンス)
アンドレ・シトロエン公園 「動いている庭」(パリ)
山口市中央公園(山口)

近代以前の公園的空間の系譜
山口市の石アーカイヴ(市内32箇所)

近代公園の成立とその発展

公園の事例として取り上げられるのは、まず、近代公園のと言うべきハイド・パークとセントラル・パーク、および、その日本への移植例である上野公園である。さらに、それ以降現出した、新しい発展的公園コンセプトの事例として、「情報学の父」と呼ばれたベルギーのポール・オトレによるムンダネウム計画、フランスの造園家・思想家ジル・クレマンの「動いている庭」が設置されるアンドレ・シトロエン公園、さらに、ここYCAMが隣接する中央公園が扱われる。

石たちの星座から浮かび上がる公園的空間の系譜

公園は近代以降に成立する装置であるが、当然ながら、近代以前にも自然的な要素を条件とする公共空間、言わば公園的空間は存在した。その系譜を日本において探るならば、古代から現代に至るまでの都市の中に存在する、様々な時代の層が刻みこまれた「のアーカイヴ」としての石が手がかりとなる。石は半ば永続的な恒常性を保つ性質から、時代時代で意味や役割を付加し、また変容させながら、公共空間の要として都市に存在している。YCAMが位置する山口市の盆地周辺広域を一つの公園として見立て、32箇所の石をめぐるリサーチとフィールドワークをおこなった。石の意味を物神的な宗教性にとどめず、石が置かれた地勢との関連、及び、各石同士の位置関係から捉えることで、多層的、多時間的な都市の思想が浮き彫りになる。

映像の絨毯

廃墟からの公園:未来へのイマジネーション

日本の近代産業遺構の廃墟を上空から撮影した高精細な映像やCGによる映像が多数連結されたインスタレーション、映像の絨毯である。

公園と比較する意味で、同じく近代化の下に生み出され、時代の潮流の中で急速に役割の終焉を迎えた近代化産業遺構の「廃墟」をフィールドワークし、映像収録をおこなってきた。囲い込みによる土地機能の限定化から勃興した西洋の産業革命が、近代化の一つので溯源であることを考えると、終焉を迎えた近代化産業遺構と、時代の潮流から切り離され、浮遊した存在である公園とは、ある意味で陰陽の関係にも見えてくる。特に、廃墟となった近代化産業遺構の現在進行形の姿として、自然が浸食していく緑化のディテールにも注目して観測する。

プロミス・パーク・プロジェクトについて

ムン・キョンウォンとYCAMは、2013年から〈未来の公園〉を主題に、リサーチおよびインスタレーション制作をおこなっており、
これまでに展覧会を通じてその成果を発表してきました。

ムン・キョンウォン

ソウル(韓国)生まれ。梨花女子大学校卒業後、カリフォルニア芸術大学にて修士号取得。文学的な時間構造を分析し、批評的にアプローチした映像やインスタレーションなど、様々なメディアを通して作品を発表。ソウルスクエアのメディアキャンバスなど、パブリックアートプロジェクトでのインスタレーション展示もおこなっている。主なグループ展に、ドクメンタ13(2012)、光州ビエンナーレ(2012)、シンガポールビエンナーレ(2013)、ホームワークス6, ベイルート(2013)、福岡トリエンナーレ(2014)、深圳インデペンデントアニメーションビエンナーレ(2014)、リール 3000フェスティバル(2015)がある。近年は、ソーシャルプラットフォームを創造することを目的とした、チョン・ジュンホとのコラボレーションプロジェクト「News From Nowhere」に注力し、2015年にスイスのミグロス現代美術館、2013年にシカゴアートインスティテュート内のサリバンギャラリーでの展示をおこなった。2015年、ベネチアビエンナーレ韓国館代表作家。
www.newsfromnowhere.kr

ムン・キョンウォン

アーティスト・ステートメント

公園とは、自然を模倣した人工的な空間で、それは人々に休息と平穏をもたらします。しかしながら、「プロミス・パーク」は一般的な公園とはやや異なる「休息」と「平穏」を提示するものです。

一般的な公園は、新しく造られる過程で場所の歴史や記憶を消し去ってしまいますが、プロミス・パークは、断片的に、そして各地に散在する廃墟(遺構)の上に造られます。廃墟は人類の試行錯誤の証であり、そこには人類の歴史や場所の記憶が埋め込まれているのです。

この新しい公園は、社会構造が崩壊し、再建される中で、自然、人類、都市や共同体の共生の可能性を探求し、本質的な公共性の意味を可視化します。そして、場所の歴史や記憶からの気付きや、ユートピアのような人々が切望する世界への問いかけを育むとともに、休息や平穏の本来の意味を再定義するための、新たな始まりに向けたプラットフォームとなるでしょう。

私は、現代における「公園」の本来の意味を新しく解釈し、提案したいと考えています。この公園はそのための出発点として、人々へと届けるものになります。

開催日時
2015年11月28日(土)〜2016年2月14日(日)
10:00 - 19:00

入場無料

休館日
火曜日、年末年始(12月29日〜1月3日)

会場
山口情報芸術センター[YCAM]スタジオB、ホワイエ
※交通案内はこちら

主催
山口市、公益財団法人山口市文化振興財団

後援
駐日韓国大使館韓国文化院、山口市教育委員会

助成
平成27年度 文化庁 文化芸術による地域活性化・国際発信推進事業

制作協力
株式会社細尾、株式会社たけとら

撮影協力
宇部興産株式会社、宇部サンド工業株式会社、JX 日鉱日石エコマネジメント株式会社、長崎市、山口市上下水道局、やまよ商事株式会社

協力
西日本新聞メディアラボ

共同開発
YCAM InterLab

企画制作
山口情報芸術センター[YCAM]

監修
阿部 一直

技術監修
伊藤 隆之

テクニカル・マネージメント
岩田 拓朗

プロダクション・マネージメント
クラレンス・ン

ネットワーク・プログラミング
三浦 陽平

グラフィック・デザイン
伊勢 尚生、村上 千咲

照明デザイン
高原 文江

映像技術
大脇 理智、今野 恵菜

音響技術
中上 淳二、西村 悦子

ドキュメンテーション
渡邉 朋也

広報
青柳 桃子

現地リサーチ・コーディネーション
高原 文江

コーディネーション
御蔵 ちほ

教育普及
朴 鈴子、菅沼 聖、安藤充人、山岡大地、金子 春香

企画・制作
井高 久美子

パーク・アトラス・ディレクション
原 瑠璃彦(東京大学大学院博士課程在籍)

リサーチ協力
木下 剛(千葉大学大学院准教授)、近藤亮介(東京大学大学院博士課程在籍)、山内朋樹(兵庫県立大学客員研究員/庭師)

テクニカル・アドバイザー
城 一裕(情報科学芸術大学院大学講師)

ヴィジュアル・プログラミング
古館 健、神田 竜、白木 良

サウンド・プログラミング
濵 哲史

ヴィジュアル・エフェクト
アリス FX

サウンド・デザイン
ダルパラン

写真撮影+映像制作
古屋 和臣

会場サイネージディレクション/フライヤーデザイン
刈谷 悠三+角田 奈央/neucitora

ウェブサイトデザイン
SETENV

スペシャル・コラボレーション
株式会社細尾

関連イベント

千年村プロジェクト
「屋垂れの村──山口市鋳銭司地区和西集落における詳細調査報告」

千年に渡り営みが継続してきた集落を、建築史、民俗学など多領域の視点から調査をおこなっている千年村プロジェクト。2015年2月と7月に、YCAMと共同で実施した、山口市鋳銭司地区和西集落での詳細調査の成果を、映像、模型などにより公開します。

開催日時
2015年11月14日〜2016年2月14日
10:00 - 19:00
会場
YCAMインフォメーションスペース

ギャラリーツアー

専門のスタッフとともに展覧会を体験し、鑑賞者が作品の様々な側面を発見、別の参加者と意見を交換をおこなっていきます。

開催日時
会期中の土曜日14時〜(11月28日と12月26日を除く)